就活中の恐怖体験
夏の暑さも厳しくなる7月の昼。
私は就活中のため、新宿駅を黒無地のいわゆるリクルートスーツとやらに身を包み
滴る汗を拭きながら本日面接のある企業へ向かっていた。
私は3月に大学を卒業したばかりなのだが、色々事情もあり既卒で就活を始め、
今日の面接が人生初の就職面接になる。勿論緊張気味だ。
電車で面接のある会社まで約1時間かかるのだが、
その間も面接を想定し聞かれるであろう質問の復習に励んだ。
会社の最寄り駅である新宿駅を歩く今、どんな質問をされても無敵だろう。
そんな心構えでやっと駅を抜けると思っていたその時だった。
「ちょっとお兄さん」
肩をトントンとされ、わりと小柄な男の人に声をかけられた。
この瞬間私はマッハ5くらいの速さで考えた。
まず、私は何も落としていない。この人と知り合いでもない。ぶつかってもいない。
マッハ6で考えても何故声をかけられたのか分からなかった。
「何ですか?」
分からなかったが無視するわけにもいかないのでとりあえず返事をした。
「お仕事中ですか?」
「いいえ、違います」
「もしかして就活中の方ですか」
「はいそうですけど......」
こんな会話が続いた。
そしてこの時、マッハ8にも達していた私の思考回路が1つの考えにたどり着いた。
もしやこの人は芸能界のスカウトの人なのではないか。
これはよくテレビで俳優やモデルが言ってるやつだぞ!
きたこれ、とうとう俺も芸能界デビューか~と。
自分でいうのは何だが顔は中の上くらいの自信はある。
それに、山Pに似てるねと人生で15回くらい言われた程の男である。
男の人に話しかけられてからこの間約10秒程度だが、
私はここまでの結論に達していた。
私はもう確信していた。だって他に思いつかないんだもん。
「少しお時間いただけますか~?」
「あ、少しなら大丈夫ですよ~」
そして私と男の人は駅の中で端の方へ移動した。
「申し遅れました、私こういうものです」
そういって男は名刺を渡してきた。
ははーん。これで決まりだな。
どうせなんとかエンターテインメントとかプロダクションとか書いてんだろ?
さてさてどこの事務所かなと私は名刺を見た。
オー〇ンハ〇ス
一瞬どころじゃなく自分の中で時が止まった。
は?
まず最初に思ったことだ。
いやいや待てと。
こちとら天下のジャニーズ山Pだぞと。(ファンの方ごめんなさい)
てっきり芸能界かと思ってたらこれ。
落差が激し過ぎて思考が追い付かないぜ。
ほどなくして私は正気を取り戻したのだが、気になることがいっぱいあった。
まず、こんな勧誘のされ方して行きたいやつがいるわけないということ。
こうしている間にも男は給料が良いなどと話しているがそれ以前の問題であること。
この会社はこんな感じで採用を決めているのかということ。
挙げればきりがないほど思いついてしまう。
そしてもう一つ。
名刺をよくよく見た私に一気に寒気が襲った。
なんとこの男と苗字が同じだったのである。
私の苗字はあまり多くはないので恐怖しかなかった。
もしかしてこの人は私が同じ苗字だと知っていて狙って声をかけたのか!?
など、考えれば考えるほど恐怖でしかない。
一刻も早く立ち去らねば。
そう思った私は今だなお延々としゃべり続ける男をなかば強引に遮り、
時間がないと嘘をつき逃げた。
もうすっかり汗が冷や汗に変わってしまった。
動揺しすぎて電車で復習していたことも忘れてしまった。
東京は怖い。そう改めて感じた。
この後30分でいいんで時間くれませんかあなたの人生変えますのでとか言ってたけど
もし私が男ではなく控えめな女性だったらしつこい勧誘を振りきれていただろうか。
ちょっと間違えば犯罪にすら巻き込まれそうである。
皆さんも気を付けてほしい。
ちなみにその後面接した会社は最終面接までいって落ちました\(^o^)/泣